
働き方やキャリアの見直しを考える際、新たなスキルを身につけるリスキリングに関心を持つ方が増えています。
しかし、退職してリスキリングに専念したいと思っても、生活費の心配から一歩を踏み出せないという方も多いのではないでしょうか。
実は2025年4月から雇用保険制度が大きく改正され、リスキリングを目的とした退職者に対して失業保険の支給条件が大幅に緩和されました。
この記事では、リスキリングと失業保険の関係について、最新の制度改正の内容から具体的な申請方法、活用できる支援制度まで詳しく解説します。
新しいキャリアへの挑戦を経済的な面からサポートする制度を正しく理解し、安心してリスキリングに取り組むための情報をお届けします。
リスキリング目的の退職なら失業保険の給付制限が解除されます

2025年4月の雇用保険制度改正により、リスキリングを目的とした自己都合退職者は、従来1〜3ヶ月かかっていた給付制限期間が解除され、7日間の待機期間後すぐに失業保険を受給できるようになりました。
これまで自己都合で退職した場合、失業保険の受給まで1〜3ヶ月の給付制限期間があり、その間は収入がない状態でした。
しかし新制度では、厚生労働省が指定する教育訓練講座を受講中または受講予定の場合、この給付制限が解除されます。
これにより、退職後すぐに失業保険を受給しながら、リスキリングに専念できる環境が整いました。
ただし、過去5年間で2回以上自己都合退職をしている場合は3ヶ月の給付制限が適用されるため注意が必要です。
なぜリスキリング目的の退職で給付制限が解除されるのか

労働市場の変化とスキル転換の必要性
現代の労働市場では、デジタル化やAIの発展により求められるスキルが急速に変化しています。
経済産業省の調査によると、今後10年間で労働者の約半数が何らかのスキル転換を必要とすると予測されています。
政府はこうした労働市場の構造的変化に対応するため、労働者の主体的なキャリアチェンジを支援する必要があると判断しました。
従来の雇用保険制度は、非自発的な離職者の生活保護を主な目的としていました。
しかし今回の改正では、自発的にスキルアップを目指す労働者も支援の対象とすることで、労働市場全体の活性化を図る狙いがあります。
リスキリングを阻む経済的障壁の解消
多くの労働者がキャリアチェンジを希望しながらも実行できない理由として、経済的な不安が挙げられます。
特に家族を扶養している方や住宅ローンを抱えている方にとって、収入のない期間を作ることは大きなリスクとなります。
従来の制度では、自己都合退職後1〜3ヶ月間は無収入となるため、この期間の生活費を貯蓄でまかなう必要がありました。
新制度ではこの経済的障壁を取り除くことで、より多くの労働者がリスキリングに挑戦できる環境を整備しています。
人材の流動化と成長分野への労働移動促進
日本経済の成長には、労働力を衰退産業から成長産業へ円滑に移動させることが重要とされています。
しかし日本の労働市場は欧米諸国と比較して流動性が低く、一つの企業に長く勤める傾向が強いという特徴があります。
今回の制度改正は、労働者が安心してキャリアチェンジできる環境を整えることで、人材の流動化を促進する狙いがあります。
特にIT、介護、環境などの成長分野や人材不足分野へのリスキリングを支援することで、産業構造の転換を後押しする効果が期待されています。
教育訓練との連携による実効性の確保
給付制限の解除は、ただ退職するだけでは適用されません。
厚生労働省が指定する専門実践教育訓練講座などの受講が条件となっています。
これは単なる離職期間の生活費支援ではなく、確実なスキルアップと再就職を実現するための制度として設計されているためです。
教育訓練給付制度と組み合わせることで、受講費用の支援と生活費の支援を同時に受けられる仕組みとなっており、実効性の高い支援体制が構築されています。
リスキリングで失業保険を活用する具体例

具体例1:IT業界へのキャリアチェンジを目指すケース
営業職として10年間勤務してきた佐藤さん(仮名、35歳)は、今後のキャリアを考えてプログラミングスキルを身につけ、IT業界への転職を決意しました。
佐藤さんは厚生労働省指定のプログラミングスクール(専門実践教育訓練講座)の6ヶ月コースに申し込み、リスキリングを目的として退職しました。
退職前の月収が35万円の場合、失業保険の日額は約6,500円(年齢や雇用保険加入期間により異なります)となります。
新制度により、7日間の待機期間後すぐに受給が開始されるため、6ヶ月間で約117万円の失業保険を受給できます。
さらに専門実践教育訓練給付により、受講費用60万円の40%(24万円)が支給され、修了後1年以内に再就職した場合は追加で16万円が支給されます。
この結果、佐藤さんは合計約157万円の支援を受けながらリスキリングに専念し、IT企業への転職を実現しました。
具体例2:介護福祉士資格取得を目指すケース
事務職で働いていた田中さん(仮名、42歳)は、人の役に立つ仕事がしたいと考え、介護福祉士の資格取得を決意しました。
田中さんは2年制の介護福祉士養成校(専門実践教育訓練講座)に入学するために退職しました。
退職前の月収が28万円の場合、失業保険の日額は約5,000円程度となります。
失業保険の受給期間は離職時の年齢と雇用保険加入期間によって決まりますが、田中さんの場合は最長150日間受給できました。
さらに2025年10月から新設された教育訓練休暇給付金制度により、最大150日分の追加給付(失業給付と同額)を受けることができます。
養成校の受講費用は年間約100万円(2年で200万円)ですが、専門実践教育訓練給付により最大112万円(受講費用の56%相当)が支給されます。
田中さんはこれらの支援を活用することで、経済的な不安を軽減しながら2年間の学習に集中し、介護福祉士の資格を取得して介護施設への就職を実現しました。
具体例3:データサイエンティストを目指すケース
製造業で品質管理を担当していた山田さん(仮名、38歳)は、データ分析のスキルを身につけてデータサイエンティストへの転身を目指しました。
山田さんは大学の履修証明プログラム(専門実践教育訓練講座)で、統計学やAI・機械学習を学ぶ1年間のコースに申し込みました。
退職前の月収が40万円の場合、失業保険の日額上限は約7,845円となります。
1年間(365日)のプログラムですが、失業保険の受給期間は150日間(雇用保険加入期間による)で、合計約117万円を受給できました。
プログラムの受講費用は80万円でしたが、専門実践教育訓練給付により32万円が支給され、実質負担は48万円となりました。
山田さんは在学中にデータ分析コンペティションで上位入賞を果たし、修了後すぐにIT企業のデータサイエンティストとして採用されました。
再就職から1年以内のため、追加給付として16万円を受け取ることができ、結果的に実質負担は32万円まで軽減されました。
具体例4:フリーランスから正社員への転換を目指すケース
フリーランスのデザイナーとして活動していた鈴木さん(仮名、29歳)は、収入の不安定さから正社員としてのキャリアを考え始めました。
鈴木さんは求職者支援制度を活用し、Webマーケティングとディレクションスキルを学ぶ職業訓練(3ヶ月コース)に参加しました。
フリーランスとして雇用保険に加入していなかったため、失業保険は受給できませんが、職業訓練受講給付金として月額10万円(最大3ヶ月で30万円)を受給できました。
さらに2025年10月から開始された「リ・スキリング等教育訓練支援融資事業」により、生活費や受講費用の不足分について低金利の融資を受けることができました。
鈴木さんは職業訓練を修了後、Web制作会社のディレクター職として正社員採用され、安定した収入とキャリアを手に入れました。
リスキリングで失業保険を受給するための手続きと注意点

給付制限解除の対象となる条件
リスキリング目的での給付制限解除を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 自己都合で退職していること
- 厚生労働省が指定する教育訓練講座(専門実践教育訓練など)を受講中、または受講予定であること
- ハローワークで求職申込を行い、受給資格の決定を受けること
- 過去5年間で自己都合退職が1回までであること(2回以上の場合は3ヶ月の給付制限が適用されます)
対象となる教育訓練講座は、厚生労働大臣が指定する専門実践教育訓練講座が中心となります。
具体的には、ITスキル、介護福祉士、看護師、保育士などの資格取得講座、大学院や専門職大学院、専門学校などが含まれます。
ハローワークでの申請手順
給付制限解除の申請は、以下の手順で進めます。
- 退職前に受講予定の教育訓練講座を選定し、申込みを行う
- 退職後、できるだけ早くハローワークで求職申込を行う
- 離職票などの必要書類を提出し、受給資格の決定を受ける
- 教育訓練講座の受講証明書または受講予定証明書を提出する
- 給付制限解除の申請を行う
ハローワークでは、キャリアコンサルタントとの面談が求められる場合があります。
この面談では、リスキリングの目的や今後のキャリアプランについて説明する必要があります。
必要書類と準備すべき事項
申請時に必要となる主な書類は以下の通りです。
- 離職票(雇用保険被保険者離職票)
- マイナンバーカードまたは通知カードと身分証明書
- 写真2枚(縦3cm×横2.5cm)
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
- 教育訓練講座の受講証明書または受講予定証明書
- 教育訓練講座のパンフレットやシラバス
教育訓練給付の申請を同時に行う場合は、さらに教育訓練給付金支給申請書なども必要となります。
受給中の義務と注意事項
失業保険の受給中は、以下の義務があります。
- 原則として4週間に1回、ハローワークで失業の認定を受けること
- 求職活動の実績を報告すること(教育訓練受講が求職活動として認められます)
- 就職した場合は速やかにハローワークに報告すること
受給中にアルバイトなどで収入を得た場合は、必ず申告する必要があります。
申告を怠ると不正受給とみなされ、給付の停止や返還請求を受ける可能性があります。
また、教育訓練講座を途中で辞めた場合や、正当な理由なく受講しなかった場合も、給付が停止される可能性があるため注意が必要です。
教育訓練給付との併用方法
失業保険とは別に、教育訓練給付金を併用することで、受講費用の負担を大幅に軽減できます。
専門実践教育訓練給付金では、受講費用の40%(年間上限32万円、最大3年で96万円)が支給され、修了後1年以内に再就職した場合は追加で20%(年間上限16万円)が支給されます。
つまり、条件を満たせば受講費用の最大70%が支給される計算になります。
教育訓練給付金の申請は、受講開始前と受講中、修了後にそれぞれハローワークで手続きを行う必要があります。
2025年以降のリスキリング支援制度の拡充

雇用保険加入条件の拡大
2028年度には、雇用保険の加入条件が「週20時間以上労働」から「週10時間以上労働」へと拡大される予定です。
これにより、短時間労働者やパートタイマーなど、約500万人が新たに雇用保険の対象となります。
この改正により、より多くの労働者がリスキリングのための失業保険を活用できるようになると考えられます。
教育訓練休暇給付金の新設
2025年10月から、新たに「教育訓練休暇給付金」が創設されました。
これは、長期の教育訓練を受講する場合、失業保険の給付日数を超えても、最大150日分の追加給付を受けられる制度です。
給付額は失業保険の基本手当と同額で、1年以上の長期講座を受講する方にとって大きな支援となります。
フリーランス・個人事業主向け支援の拡充
2025年10月には「リ・スキリング等教育訓練支援融資事業」がスタートしました。
この事業は、雇用保険に加入していないフリーランスや個人事業主を対象に、教育訓練費用や生活費について低金利の融資を提供する制度です。
また、求職者支援制度においても、フリーランスからの転職を希望する方への職業訓練と職業訓練受講給付金(月額10万円)の支給が拡充されています。
企業在籍者向けの支援
退職してリスキリングする場合だけでなく、企業に在籍しながらリスキリングする場合の支援も強化されています。
事業主が従業員にリスキリングの機会を提供する場合、人材開発支援助成金のリスキリングコースにより、訓練費用や訓練中の賃金の一部が助成されます。
これにより、退職せずにリスキリングする選択肢も広がっています。
まとめ:リスキリングと失業保険を活用したキャリアチェンジ
2025年4月の雇用保険制度改正により、リスキリングを目的とした退職者は失業保険の給付制限が解除され、7日間の待機期間後すぐに受給できるようになりました。
この制度改正により、経済的な不安を軽減しながら新たなスキル習得に専念できる環境が整いました。
失業保険と教育訓練給付を併用することで、生活費と受講費用の両面で支援を受けることができ、安心してリスキリングに取り組むことが可能です。
制度を活用するためには、厚生労働省が指定する教育訓練講座を受講し、ハローワークで適切な手続きを行うことが必要です。
2025年10月からは教育訓練休暇給付金やフリーランス向け融資事業も開始され、さらに支援が拡充されています。
リスキリングは、変化する労働市場において自分自身のキャリアを主体的に築いていくための重要な手段です。
失業保険をはじめとする公的支援制度を正しく理解し、効果的に活用することで、新しいキャリアへの挑戦がより現実的なものとなります。
新しいキャリアへの一歩を踏み出しましょう
キャリアチェンジやスキルアップを考えているけれど、経済的な不安から踏み出せずにいる方は少なくありません。
しかし、2025年の制度改正により、リスキリングへの挑戦がこれまでになく後押しされる環境が整いました。
まずは最寄りのハローワークに相談し、ご自身の状況でどのような支援を受けられるか確認してみることをおすすめします。
ハローワークでは、キャリアコンサルタントが無料でキャリア相談に応じてくれます。
あなたの経験やスキル、今後の希望を踏まえて、最適な教育訓練講座や支援制度についてアドバイスを受けることができます。
人生100年時代と言われる現代において、一つのスキルや職業に固執せず、時代の変化に合わせて自分自身をアップデートしていくことが重要です。
失業保険をはじめとする公的支援制度は、そうした挑戦を後押しするために用意されています。
新しいキャリアへの挑戦は、決して簡単な道のりではないかもしれません。
しかし、適切な支援を受けながら計画的に進めることで、必ず成功への道は開けます。
あなたの新しいキャリアへの一歩を、ぜひ今日から始めてみてください。